それは嫁の念願だった。
「ルンバ」というアメリカ製の掃除機。
自動でウロウロしていつの間にかに室内を奇麗にしてくれる。
かつて、深夜の通販番組で見たことがあるような気がする。
無精な嫁は、それを執拗に欲しがった。
「そんなに、うまくいくわけないじゃん。どーせ、椅子の脚とかに引っ掛かって立ち往生。いつの間にかに電池切れになるのがいいとこじゃん」
僕は、その性能に懐疑的だった。
しかし嫁は、この家のプランを見たときから疑いなく、
「この家にはルンバだ!」
と決めていた。まったく段差がなく、障害物も家具も少ない空間には、ルンバはうってつけだと言い放っていた。
そしてある日、ルンバは届いていた。
嫁によると並行輸入で安く手に入れたらしい。
果たしてちゃんと動くのか・・・
樹が記念すべき最初のスイッチオンの儀式を敢行した。
ルンバが動き出す。 それが何者かを知らない樹は、いきなり音を立てながら不気味な動きを見せる物体におののいた。
そいつは素早く左右に動き、樹を追いかける(ように感じたようだ)。
樹は逃げまどう。
確かに、この家はルンバにとって動きやすいらしく、
スイスイと縦横無尽に走り回る。
「このまま試しに、昼飯にでも食いにいくか」
僕らはルンバを一人働かせたまま、外出することにした。
こいつはちゃんと掃除を遂行し終えているのか、
それとも家具に引っ掛かって、無惨に息絶えているのか・・・。
期待と不安の入り交じった感覚を胸に、僕らはルンバを残し家を出た。
続く・・・