一宮には乗馬クラブがある。
僕の家からも3分くらいの波乗り道路沿い。
いつものように走っていたら、妙なものを見つけた。
テーブルの上に人参が並んでいるのだ。
近寄ってみると「一皿200円」、
と書いてある。
乗馬クラブの檻の端っこに馬が繋がれていて、
そいつに、餌の人参を自由に与えていい、というシステム。
むむ、賢い。
この馬は、そこに居るだけで、しかも自分で自分の食料を得ながら稼いでいる。
樹はそれを知るなり餌をあげる、と言って聞かない。
こうして、乗馬クラブの前を通る家族連れの車が、子どもにせがまれるままに停まって行く。
遠くで見ているとかわいい馬も、すぐ近くに寄ると迫力だ。
最初はノリノリだった樹も、馬が近寄って来た途端に腰が引けている。
馬は、人参と見るやすごい勢いで長い顔を出してくる。
大きな口を開けると、子どもの腕くらいは飲み込んでしまいそうな大きさだ。
確かに大人の僕でも、ちょっと怖い。指くらいは持って行かれそうだ。
恐る恐る人参を差し出し、すぐに手をひっこめる。
こんな感じだ。
確かにグロい。
しかも息も臭い。
まあ、樹には生命の力強さと生々しさを感じてもらうにはいい機会だ。
翌日、乗馬クラブの前を通ったら、樹が「餌をやる」と、性懲りもなく言う。
昨日あんなに怖がっていたのに。こうして馬場家は乗馬クラブのカモになっていく。