この日は朝からただならぬ空気が流れていた。
なんだか隣の家、そしてその前の庭が、どうもザワついている。
いつもは、ほとんど一人で外のデッキチェアに座って、
音楽を聴いたり、PCで仕事をしていたり、食事をしている音楽家の隣人。
でもこの日は、見慣れない顔がたくさんいる。
しばらくすると、ブロロロッーという重低音が聞こえて来た。
な、なんだこいつは!
これで公道を走っていいのか、と疑いたくなるようなジープが、
突如として庭の中に入って来た。
どうみてもアーミー仕様、かなり本格的な外装。
まじに、今日は何が始まるのだろう?
そしてこの人たちは、一体、何者なんだ!?
しばらくすると、庭にさまざまな楽器が並び始めた。
アンプやスピーカーも入って本格的。
ビールを片手に音合わせをしている。それが妙にかっこいい。
そしてセッションが始まった・・・。
す、すげー。
近くの住人たちも集まって来て、贅沢なプライベートライブ。
見慣れた隣人が別人に見える!
生演奏の迫力はすごかった。
演奏は休みを挟んで(休憩中は、どうもサーフィンに行ってたようです)、
夜の部が再開。夕暮れらしい落ちついた選曲だった。
プロのミュージシャンは、ちょっと音合わせをして、
「じゃ、次、行こう!」
っていう感じで次々に曲を演奏していく。
まるで会話でもしているかのように。
誰に見せるわけでもなく、ただ自分たちが楽しむための演奏。
その掛け合いは純粋に楽しそうだ。
その様子を、ずっとたたずむわけでもなく、生活のそばでごく自然に聞き流している、僕ら隣人たち。
最高に贅沢な日だった。
僕は今でも、この素敵な音楽家が何者かを、よく知らない。
時折、誰かが来て楽譜をやりとりしながらミーティングしている姿を目にする。
しばしば朝の日差しを浴びながら、屋外で朝食をとっている。
僕の家はガラス張りなので、いるときはほぼ毎日、目が合っている。
そんなときは、ちょっと会釈する。
この距離感が、僕は心地いい。