こんなにドラマティックな断崖絶壁は見たことがない。
視界の限り、180度以上のワイドビューで太平洋が広がっている。地球が球体であることがはっきり認識できる場所だ。
断崖の高さは50m近くあるのではないだろうか。近づくと吸い込まれそうで、足がすくむ。風もビュービュー吹いている。眼下には九十九里浜が大きな弧を描きながらずっと遠くまで続いていて、先はかすんで見えない。この一帯がベッタリした土地であることを再認識する。
この岬にたどり着く道はとてもわかりにくい。
たいした看板もない。カンを頼りに、なんとなく細い道を海の方角に向かって登っていくと、突然視界が開け灯台が姿を見せる。何の期待もせずに車を降りて岬に登ると圧巻の風景が待ちかまえているのだ。
一緒にいた相吉さんが何の脈絡もなく、海に向かって吠えた。それが余りにも気持ちよさそうに見えて、僕も一緒に吠えてみた。「ウオォー!!!」。ここしばらく味わったことのない不思議な感情がこみ上げて来た。それがどんな感情なのか、言葉にするすべはない。
切ない看板を見つけた。
この場所は第二次世界大戦の時、海からやってくる米軍機を迎撃する砲台だったのだ。確かにここは太平洋から首都へ向かうルートの上にあって、対空砲火にはうってつけの場所だ。しかし、攻撃しやすいことはすなはち、攻撃されやすいことの裏返しでもある。
僕は想像した。
この誰もいない房総の岬で、無防備に曝されながら、機関砲を握る兵士の孤独と恐怖について。
僕らを思わず吠えさせたのは、かつてここにいた兵士だったのかもしれない。