セカンドハウスローン事件で、僕はすっかり銀行に対し臆病になっていた。
僕は銀行に「家が欲しい」なんて言いに行く資格などまるでないのではないか。
設計事務所をやっているのは小さな企業の経営者であり、ローンを組むにはマイナスの条件が揃っている。
そういえば、博報堂を辞めた翌月、伊勢丹カードをつくるのを断られ衝撃を受けたのを思い出した。後ろ盾のない大企業退職者の信用力は学生以下なのを思い知ったではないか。それから数年が経ち、事務所の経営も少しは軌道に乗っている(はず)。しかし、銀行の視点から見れば趣味に毛のはえたくらいの収益性だろう。
そんなとき、ネットでおもしろいものを見つけた。
「住宅ローン、ネット診断」
ウェブの簡易診断で、どのくらいの金額まで住宅ローンを借りれるのかを診断してくれるのだ。
これなら銀行に相談に行く前に心の準備をすることができる。そもそも、今、僕がこの状況でいくらまでローンが借りれるのか、純粋に興味があった。
これなら電話や窓口で気まずい思いをしなくて済む。
僕は入力フォーマットをそそくさと埋めて、データを送信した。
待つこと一週間。氷のような返信が戻って来た。
理由さえわからない一方的な断りの手紙。金額以前の問題、審査のまな板の上にも乗らない。
その手紙は僕に、そう言っているようだった。被害妄想だとは思うけど。
僕はまるで大学受験の不合格通知電報を受け取った時のような気分で、この書面を見つめたのだった。