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2008.4.22

ハトの到来は引っ越しの予感

馬場正尊
 

今日は房総から離れて都心の部屋から。
自宅は泉岳寺近くのボロマンションの8階である。
洗濯物を干しているベランダにハトが飛び込んできたのだ。

空調室外機の上にちょこんとたたずんで動かない。
まだ薄寒い空気の中、羽根を膨らませて暖をとっている。
そのぽってりした姿がまるで、
「おりゃ、動かないぜ」
と言っているようで「それならばご勝手に」と思い、しばらく放っておいた。
しかし30分近く経っても動く気配がない。さすがに心配になり、恐る恐る手を差し伸べてみてもやはり動かない。
よく見ると鑑札のようなものが引っかかって、それが足と羽の一部に傷をつけている。
膨らんで「おりゃ、動かないぜ」と、見えていた姿も「不安です、何とかしてください」と言っているようにも見えるではないか。こりゃ放っておけない。しかし、いったいどうしたらいいのだろうか?

まずは鳥の動物病院を探し始めた。
すると池袋に鳥の専門病院が見つかって、さっそく電話してみた。
ちゃんと何処の世界にも専門はあるのだ。

鑑札が羽を傷つけていることを告げると、
「それには飼主がいます。下手に治療すると器物損壊になりますからうかつに手を出さないで、飼主を探して連絡したほうがいいですよ」
とても慣れた、そして丁寧な対応だった。
説明を聞いていくといろいろなことがわかってきた。
・ハトの世界には「日本伝書鳩協会」と「日本鳩レース協会」の二つがあって、鑑札がついているのはそのどちらかに所属しているということ。
・それは鑑札の色で区別されていること。
・今回のハトくんは「日本伝書鳩協会」所属であるということ。
・鑑札の番号から飼主を特定できること。
なるほど。
さっそく「日本伝書鳩協会」に電話して飼主を聞いた。どうやら神奈川に住む松田さん(仮名)という人らしい。
連絡先を聞いて、さっそく電話。おじいさん(たぶん)が電話口に出た。
「お宅のハトが、うちのベランダで傷ついてうずくまってるんですが・・・」

そのおじいさんが口にしたのは、思いもよらないフレーズだった。
「じゃあ、宅急便で送り返してください」
え・・・、そんな乱暴なことをしていいのか!
彼曰く、日通には鳩専門の宅配サービスがあるのだと言う。
「伝書鳩が送られてどーすんだ」、というツッコミはこの際さておき、まずは日通に電話。
すると「はいはい、鳩の宅配ですね」と、まるでミカンを送るかのような当たり前のような対応が始まった。
ハトってそんなに頻繁に輸送するものなのか!?

翌日、鳩の宅急便のおじさんが、なんだかかわいい箱を持参でやってきた。それが、これ。

専用の箱まであるのだ。空気穴は理解できるが、わざわざ鳩のプリントまで施してある。
過保護なようにも見えるが、鳩は平和の使者でもあり、このくらいは必要か。
僕らは丁寧にハトくんを箱に納め、おじさんに手渡した。
たった一日のベランダ滞在だったが、うっすらと情が湧き始めていた僕らは、いくらかの寂しさを感じていた。
行ってしまうのか、鳩よ。

「確かに預かりました」
鳩宅急便のおじさんは、礼儀正しく挨拶をし、丁寧に箱を持って去っていった。
無事に飼主の元に届いただろうか。

実は、小鳥が馬場家のベランダに飛び込んできたのはこの日が始めてではない。
もう10年以上前になる。多摩の聖蹟桜ヶ丘に住んでいたときも青いカナリアが飛び込んできたことがあった。そいつの場合、飼主を特定するすべもなく家で飼うことになった。傷を負っているわけではなかったが、「手乗り」に仕込んであったらしく、おそろしく人に慣れていた。家族の肩から肩へ飛び移る仕草がかわいくて、しばらくそいつは我が家のアイドルだった。家のなかで完全に放し飼いにするという自由奔放さを与えたため、部屋の中がフンだらけになり掃除が大変だったのを覚えている。
僕らはそのカナリアが飛び込んでしばらくした後、中目黒に引っ越すことになる。
馬場家にとって、ベランダに飛び込んで来る鳥は引っ越しのサインなのだ。

本格的に引っ越しを考えなければいけない時がやってきた。
僕も妻も、この迷い鳩の到来で、その時が近いことを感じていた。

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このブログについて

東京R不動産のディレクターでもある馬場正尊が、ふとしたきっかけから房総に土地を買い、家を建て、生活を始めるまでのストーリー。資金調達から家の設計、周辺の環境や人々との交流、サーフィンの上達? まで。彼の人生は些細な気づきから、大きくそれていくことになる。馬場家の東京都心と房総海辺の二拠点生活はこうして始まった。
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